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盛岡家庭裁判所 昭和45年(少ハ)4号 決定

少年 H・T(昭二四・八・三〇生)

主文

少年を昭和四六年二月一〇日まで特別少年院に継続して収容する。

理由

第一、申請の趣旨および理由

別紙のとおりである。

第二、当裁判所の判断

家庭裁判所調査官伊藤徳志作成の昭和四五年七月七日付、同月一四日付各調査報告書、同人作成の同月一七日付意見書、当審判廷における法務教官板橋富士男、保護者H・D、少年の各供述、社会記録によると、次に附加するほか、別紙意見書二、三記載の事実が認められる。

一  少年は強姦致傷、暴行につき昭和四四年一月二一日山形家庭裁判所において特別少年院送致決定を受け、同月二三日より盛岡少年院に収容中、昭和四四年八月二九日二〇年に達し少年院法第一一条第一項但書により送致後一年に当る昭和四五年一月二〇日期間満了となるものであつたが、同裁判所から同年一月三〇日少年を同年三月二〇日まで特別少年院に継続して収容する旨の決定を受け、更に同年四月一一日、同年六月二〇日まで同じく継続して収容する旨の決定を受けた者である。

二  ところで、少年が上記再度収容継続された理由は少年に再三の院内規律違反があり犯罪傾向が十分矯正されていないとされたことによるところ、本件も同様であつて、今回は喫煙煙草、マッチの不正持込みの規律違反があつたものである。

三  少年は準普通域の知能で、自己顕示性、気分易変性、興奮爆発傾向等が見え、特に従前酒に眈溺し飲酒すると抑制を欠き粗暴になる傾向があつたし、性格上問題点としては独創性自発性の少ない平凡な紋切型の慣習性の強い外向的性格、情緒不安定で身体的活動の抑制に乏しく情緒的刺戟に単純な行動に出易く、要求水準が高い割に生産的能力が低く、劣等感が強く、自信の乏しい神経質傾向が各認められる。

この点、少年院内の少年の適応状況、例えば規律違反を見ても、上記性格的負因によるもので、そこに反社会的行動、社会不適応を起し易い面を窺うことができる。

しかしながら、今回の規律違反にしても根強い反社会性によるものではなく、また特に深い反抗的意思をもつてなしたものでもなく、規律違反のため収容期間が長びくかも知れない不利益を自覚しながらも、発見されないであろうとの単純な気持から抑制できないまま違反行為に及んだものである。

かかる点からみると、少年に対しては根気強い人格的接触、継続的、強制的慣習付けを必要とし、その意味で少年院での矯正教育に適しているということができる。

四  少年は現在、今後違反行為をすることなく早く少年院を退院し、退院後は酒をつつしみ自動車運転免許を取得し就職したい旨述べている。

五  少年院での少年の処遇段階は、昭和四五年八月一日一級の上に進級、事故なく経過すれば同月中に仮退院申請、同年九月中に委員面接、同年一〇月に仮退院の運びになる予定である。

六  保護者は少年の退院を待つて就職の準備中である。

以上の事実を総合すると、少年は犯罪的傾向が未だ矯正されていないものというほかはなく、退院させるに不適当であると認めなければならない。

再度の収容継続の可否については説の岐れるところであるが、当裁判所は積極説を相当と解する。

そこで、期間の点について考えるに、上記事実を総合すると、主文掲記の日時までとなすを相当とする。

よつて、少年院法第一一条第四項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 清水利亮)

別紙一

申請の趣旨および理由

少年は、本年四月一一日山形家庭裁判所の収容継続決定(昭和四五年(少)八第二号)に基づき、当院に収容中の者で、本月二〇日少年院法第一一条第八項の規定に該当するので退院させなければならないのでありますが、別紙意見書記載のとおり、未だ犯罪傾向が充分矯正されず、かつ当院における処遇の最高段階に達していないので退院させることを不適当と認め、同書記載の相当期間、収容を再継続していただきたく、同法同条第二項の規定により申請いたします。

別紙二

意見書

少年 H・T(昭和二四年八月三〇日生)

一 希望する収容継続期間 八ヵ月

二 申請事由

本少年は、退院期日が近かづくにつれ、院内生活が急激に弛緩し、安易に規律違反したので、既に二回にわたり収容継続申請をおこない、本年一月三〇日(決定収容終期本年三月二〇日まで)同四月一一日(決定収容終期本年六月二〇日まで)それぞれ貴庁から収容継続の決定をうけ、現在、当院に収容中のものであります。

ところが、前記のかような傾向は、依然として改善されていないため、常に担任職員をはじめ、多くの職員から指導をうけ再三注意を喚起されていたにもかかわらず、本年五月中旬喫煙の規律違反行為があり、同月二一日謹慎七日減点五〇点の処分をうけた。しかし、同違反行為に対する改悛の情がうすく、真実の一部を述べたのみで、真相を供述しなかつたため、同少年が不正に持込んだ多量の煙草、マッチにより、数多くの同僚を同様の規律違反行為に巻込む結果となつた。

このことが発覚したので同少年は、不正品持込みの規律違反行為で、同月二九日重ねて謹慎一〇日減点七〇点の処分をうけることになり、従つて処遇の段階も一級の下に止まつたままとなつた。この規律違反行為そのものは、一般の社会規範にてらせばさして重大なものとはいえないかもしれないが、少年がその行為にいたる心情の過程と、二回にもわたつて収容継続の決定がおこなわれ、生活態度の改善と自省、自戒を促がされながら、今回も安易に違反行為を繰返した心情は、社会復帰に対する自覚と遵法意識を全く欠いているものと考えざるを得ない。

このような現状から、今後少年に猛省を求め、真の自覚による正しい生活態度を身につけさせ、規範意識の涵養と社会適応性を形成させ、院内処遇の最高段階に達した上で退院させる必要がある。

三 保護環境

現在、少年の家庭は、両親と弟二人の四人家族で、父は、国鉄に勤務し、少年を除けば、特に問題のない健全な家庭であるので、少年の帰住環境としては、特に支障となる点は見られないようである。

しかし、少年の性格と安易な規範意識、向上意欲の欠如等当院における生活行動の経過観察結果から考察すると、退院後の職業への定着と社会生活を安定させるためには、保護観察による、指導と援助の期間が是非必要であると考えざるを得ない。

以上の諸点から、院内教育の完成と、保護観察による指導期間を含めて、前記期間の収容継続が必要であると思料します。

参考一

再度の収容継続決定書

(山形家裁 昭和四五年少ハ第二号、昭四五・四・一一決定)

少年 H・T

主文

本人を、昭和四五年六月二〇日まで、特別少年院に継続して収容する。

理由

本件申請の趣旨は、前記本人は、昭和四四年一月二一日山形家庭裁判所において特別少年院送致の決定を受けて盛岡少年院に収容されたが、院内規律違反行為があり、処遇の最高段階に達せず、犯罪的傾向がなお矯正されていないと認められて、昭和四五年一月二一日から二ヵ月間の収容継続決定を受けて現に在院しているものであるところ、その後、下記の如き自己の性器自傷行為があり、処遇の最高段階に達せず犯罪的傾向が充分に矯正されていないので、なお三ヵ月間の収容継続決定を求めるというにある。

ところで、当裁判所は、再度の収容継続申請も適法であるものと解するところ、本件につき、本人の供述、当裁判所調査官佐藤準二郎作成の調査報告書及び盛岡少年院長広川良助、同院分類保護課長小野鉱造の各意見を総合して判断するに、(1)前記本人は、昭和四五年三月一五日俗に「ダイヤ」あるいは「人工衛星」と称する性器自傷行為をなし、同月一八日右行為が発覚したこと、(2)右行為は、性交時の刺激を高めることを目的としており、しばしば、暴力団員等が水商売の女性のヒモとなつて女性を自己にひきつけておくために行われることが多いのであるが、右少年院内では、退院に際し、ひそかに右自傷行為をして退院していくことがはやつていること、(3)前記本人は、本年三月初旬に院内での身体検査を終了したので、もう退院までは検査はないものと考え、退院を控え仲間に対しいわゆるメンツを立てるために右行為に及んだものであること、(4)右自傷行為につき、単独室での謹慎一〇日の懲戒処分を受けたが、その期間中食器盆への落書、官用図書破損等をなしたために、更に謹慎五日の処分を受けたこと、(5)前記自傷行為発覚後の本人の生活態度は急激に弛緩し、職員から度々注意を受け、且つ又職員に対し集団場面では虚勢的態度をとつたりして消極的抵抗を示すなど、その生活態度の乱れがみられること、(6)本人は、昭和四五年一二月一日一級の下に進級したまま、再三の規律違反行為によつて減点され、いまだ一級の下にとどまつていること等の諸事由が認められ、このまま退院させることは、不適当であると認めざるを得ず、この際、本人に自覚と反省の機会を与え犯罪的傾向の矯正をはかるため、なお三ヵ月間の収容継続もやむを得ないと思料する。よつて、少年院法一一条四項少年審判規則五五条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 伊藤政子)

参考二

収容継続決定書

(山形家裁 昭和四五年少ハ第一号、昭四五・一・三〇決定)

少年 H・T

主文

本人を、昭和四五年三月二〇日まで、特別少年院に継続して収容する。

理由

本人は、昭和四四年一月二一日山形家庭裁判所において、強姦致傷、暴行保護事件につき、特別少年院送致の決定をうけ、同年同月二三日盛岡少年院に収容されたものであるが、昭和四四年八月二九日満二〇年に達し、少年院法一一条一項但書により送致後一年に当る昭和四五年一月二〇日をもつて期間満了となるところ、同年同月一三日前記少年院長広川良助から本人に対する収容継続申請がなされたものであり、その理由とするところは、本人は知能は準正常で全般的に知的活動は均衡がとれているものの、自己統制力に乏しく持続性に欠け、興奮性が強いなどの性向をもち、院内における生活態度も不良で職員を嘲弄するなどの院内規律違反行為があり現在処遇の段階は一級の下にとどまり、いまだ処遇の最高段階に達していないので、ひきつづき矯正教育を施す必要があり、なお相当期間収容を継続する必要があるものであるというにある。

よつて当裁判所は家庭裁判所調査官猪野弘道作成の調査報告書及び同院法務教官並びに本人の各供述を総合すると、前記申請書に記載のとおりの諸事由のほか、本件申請後の昭和四五年一月二四日に更に院内紀律違反(いわゆる「毛抜き」)をなし、それにつき謹慎三日減点三〇点の処分を受け現に謹慎中であること、そのために、更に進級が遅れいまだ一級の下にとどまつていること、このまま順調な経過をたどれば昭和四五年三月中旬には退院出来る見込みであること、又本人の資質性向は前記申請書に指摘されているとおりであり、本人は院内で虚勢を示すために、あるいは自棄的感情にかられて前記の如き院内紀律違反行為に及んだものの、現在は内省して、落着きをみせていること、本人の退院後の帰住については、保護者が積極的な引受け意思を示しているので特に問題はないことを認めることができ、右認定の諸事情を総合して判断すると、現段階でただちに本人を一般社会に復帰させるのは適当といえず、これを機会に本人に対し軽挙妄動をいましめ、規範意識の乏しさに対し充分な反省をうながし、社会復帰への準備をさせる必要があると認められるので更に収容を継続して矯正教育を施すのが相当であると思料される。そしてその期間は本人に対する収容期間満了の日の翌日である昭和四五年一月二一日から起算して向う二ヵ月すなわち昭和四五年三月二〇日までとするのが相当である。

よつて、少年院法一一条四項少年審判規則五五条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 伊藤政子)

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